【レビュー】Life Is But A Dream… / Avenged Sevenfold (2023)

Life Is But A Dream... / Avenged Sevenfold (2023) レビュー
Life Is But A Dream… / Avenged Sevenfold (2023)
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前衛的、でもどこか軽やかな挑戦作

アメリカのメタルバンドAvenged Sevenfold(略称A7X)が
2023年6月2日に発表した8thアルバム

『異邦人』等で知られるフランスの作家カミュの作品から影響を受けているとのこと。

今までのアルバムでもその片鱗は見られていたものの、
そのキャリアの中でも一番多種多様な音楽性を自由に飛び回るアルバムに仕上がりました。

今年のHR/HM界に議論を巻き起こすであろう挑戦作です。

Life Is But A Dream... / Avenged Sevenfold (2023)
Life Is But A Dream… / Avenged Sevenfold (2023)

1.Game Over 3:47
2.Mattel 5:30
3.Nobody 5:54
4.We Love You 6:15
5.Cosmic 7:31
6.Beautiful Morning 6:32
7.Easier 3:38
8.G 3:38
9.(O)rdinary 2:52
10.(D)eath 3:19
11.Life Is But A Dream… 4:32

久々に前作と変わらないメンバーでの制作に

メンバーは以下の通り。
M. Shadows (Vo.)
Synyster Gates (Gt.)
Zacky Vengeance (Gt.)
Johnny Christ (Ba.)
Brooks Wackerman (Dr.)


Bad ReligionのドラマーのBrooks Wackermanが加入して制作された
前作“The Stage”(2016)から変わらぬメンバーで、
6年ぶりに発表されたのが今作。
(このブランクは過去最長)

作曲も担った初代ドラマーThe Revの死後、なかなかドラマーは固定されず、
“Nightmare“(2010)ではMike Portnoy
“Hail To The King”(2013)ではArin Ilejayがドラマーを務めましたが、
いずれもアルバムとしては1作のみでのメンバー交代だったので、
前作と同じ編成でアルバムを発表するのは実はかなり久々だったり。

一応今作発表までの間にも、
2017年には前年発売の“The Stage”のデラックスエディション、
2018年には新曲“Mad Hatter”を収録した“Black Reign – EP”
2020年にはレア・トラック集“Diamonds In The Rough”(2008)に
5曲を加えたリニューアル版が発表されており、
作品自体が出ていなかったわけではないのですが、
決して新曲自体は多くなく、ニューアルバムの話題も入ってこないままだったのが近年の状況。

そうした中で、2023年3月に新曲“Nobody”が先行リリース、
4年以上の歳月を費やして制作していたニューアルバムが
6月2日に発売されるという知らせがようやく届くことになりました。

全曲紹介

裏ジャケット(トラックリスト)
裏ジャケット(トラックリスト)

1.Game Over 3:47
スパニッシュ風味のアコースティックギターから突如として爆走!
人生におけるイベントの断片を体言止めで吐き捨てるように歌ったかと思うと、
後半ではスローになり、反復ばかりの退屈な人生への諦めと別れのメッセージとともに
またイントロのギターが顔を出す。
アルバムタイトルにもある”life is but a dream anyway…”という歌詞で〆。

2.Mattel 5:30
今までのA7Xの雰囲気に割と近い、メタル要素強めの曲。
前曲の終わりから間髪を入れずに切り込んでくるところも疾走感を煽る構成。
とはいえストレートに疾走するイントロの横から突如入ってくる邪悪なギター、
急にスローになるパートがあったりと、一筋縄ではいかない印象。

3.Nobody 5:54

Nobody / Avenged Sevenfold

先行配信リリース第1弾。
前作”The Stage”の後半あたりに入っている曲のような、
ミッド~スローテンポでじわじわと攻めてくるイメージで、
正直なところ初見の印象はそこまで鮮烈なものではなかったのですが、聴きこんでいくうちに
シニスター・ゲイツのエモーショナルなギターソロやブルックスのドラムの妙、
ストリングスとバンドが絡みあう壮大な世界観が伝わってくるように。
ストップモーションで荒廃した街並みを骸骨が一人さまよい歩くMVも美しかったです。

4.We Love You 6:15

We Love You / Avenged Sevenfold (360度VR映像)

先行配信リリース第2弾。
いきなりの疾走パートに今までにないほど加工を加えたボーカルが乗り、
そこから一気にテンポチェンジして四つ打ちに、
“More power- More pace – …”という現代社会への批判を込めた歌詞が続いたかと思いきや、
サビに入ったらスローになり、さらにそこから爆走ギターソロへ発展……と、
とにかく目まぐるしく曲調が変化する先の読めない一曲。
とはいえこのパッチワークのような曲調の変化自体は、
1stアルバム”Sounding The Seventh Trumpet”(2001)にもみられた
A7Xの特徴のひとつなのではないかと思っています。

5.Cosmic 7:31
本作で一番の長尺曲。
最初はゆったりとした入りで、そこからシニスターのギターソロが入り、
曲名の通り宇宙的なスケールの大きな展開になっていきます。
後半ではオートチューンがかかったボーカルがバックで流れる試みがあり、
曲調が変化に富んでいるので、7分半という長さをあまり感じさせません。

6.Beautiful Morning 6:32
打って変わって、本作で一番重苦しく陰鬱なイントロの一曲。
救いを求める心と諦念の狭間で揺れる味わい深い歌詞も特徴的。
ラストのピアノから次の曲に繋がります。
ここではギタリストのシニスター・ゲイツが、ピアノ、シンセ、メロトロン、
ハモンドオルガンに3種類のハーモニカも演奏しています。

7.Easier 3:38
“It’s easier…”というこれまたオートチューンのかかったサビで始まる一曲。
そこからのメタリックで叩きつけるようなヴァースとの対比が、
アルバム全体を通した主人公の葛藤とリンクしています。

8.G 3:38
個人的には本作で一番気に入ったのがこの曲。
Dream Theaterかと思うような変拍子と、サビで入ってくるどこか不安になる女声のハモリが癖になる……、そして何よりブルックスのドラムのキメのひとつひとつがとにかく冴えています。
ここから3曲は曲間なく繋がっており、一連の組曲のような構成。
わざわざ()付きで強調されている通り、頭文字を合わせると”GOD”の語が浮かび上がります。

9.(O)rdinary 2:52
Daft Punk!?と思うようなファンキーでキャッチーなベースと、
これもおそらく初であろうチャカチャカしたギターのカッティングに乗って、
オートチューンのかかったボーカルがここで三回目の登場。
しかしながらその近未来的な雰囲気の中に切り込んでくる、
M.シャドウズのエモーショナルな歌唱がこの曲に深みを与えています。

10.(D)eath 3:19
ピアノとストリングス、管楽器をバックにジャジーに歌いあげる一曲。
1曲目の”Game Over”では感情をなくしていたようだった主人公が、
自分自身の魂をコントロールしたいという思いを強めていき、
最後には死を通して生を実感する……という感じでしょうか。
ラストにはオーケストラの音がだんだんと大きくなっていき、
最高潮に達したところでラストのタイトルトラックに移ります。

11.Life Is But A Dream… 4:32
アルバムを締めくくるタイトルトラックはピアノインスト。
大団円で完結させるというよりも、むしろスッと消えていくような終わり方になっていて、
またアルバムをはじめから聴きとおしたい気持ちにもさせられます。
美しくも激しさをたたえた曲ですが、弾いているのはシニスター・ゲイツ。
その高い演奏技術にただただ驚嘆します。

感想:尖っているはずなのに、不思議と聴きやすい

Life Is But A Dream... / Avenged Sevenfold (2023)
ブックレット、メッセージカード
ブックレット(左)、日本盤初回生産分限定メッセージカード(右)

本作”Life Is But A Dream…”は、アルバム全体を通して、
前衛的で一筋縄ではいかない、中々に癖の強いアルバムだというのは前提なのですが、
そのうえで「思いのほか聴きやすい」という感覚がありました。

コンセプトアルバムに見られがちなダレや重苦しさはそこまで感じられず、
その代わりにあったのは、メタル以外の音楽性を雑多に取り込み、
ひとつの作品として構成していこうというフットワークの軽さ
でした。

前作”The Stage”にもプログレ的で前衛的な雰囲気は多分にありましたが、
あくまで「メタル」の枠を逸脱したものではなかったと思います。
ところが今作では、「メタル」の枠からさらに一歩踏み出して、
ファンキーな曲やジャジーなテイストの曲などで
アルバムに彩りを加えることに成功しているように感じました。

また、クレジットを見て驚いたことなのですが、本作においては
ギタリストのシニスター・ゲイツ多種多様な楽器を操る大活躍
アルバム全体の雰囲気を決定づける働きをしているので、
是非ともクレジットを確認しながら聴くことをお勧めします。

レビューを書くうえで歌詞についてもじっくりと読み返してみたのですが、
その文学的な味わい深さにも心を打たれました。
紙ジャケットやブックレットに使われている紙の質やフォントを見ても、
ひとつの読み物として捉えてみても面白いのかもしれません。

メタル一筋!というリスナーの期待に応えるような作品ではないとは思われますが、
様々な音楽性や取り組みがハイレベルに融合した、
聴くほどにその深みにはまっていくアルバムなのではないかと思います。

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Life Is But A Dream… / Avenged Sevenfold (2023)

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