(注:大阪公演セットリストへの言及あり)
7月22日、Asueアリーナ大阪(大阪市中央体育館、旧:丸善インテックアリーナ)にて、
“The BIG Finish Farewell Tour”と銘打たれた、
MR.BIGのラストツアーの大阪公演に行ってまいりました。
今回のジャパンツアーは名古屋、大阪、東京の3都市で行われ、
最後の武道館公演はWOWOWで生中継されるとのこと。
今から楽しみですが、やはり一抹の寂しさもあります。
個人的にはMR.BIGは中学時代の友人の薦めですっかりハマってしまい、
お気に入りのバンドになっていたのですが、なかなかライブを観に行く機会に恵まれず、
故・パット・トーピー(Dr.)の姿を生で拝むことができなかったのは今も心残りです。
さて、今回のフェアウェルツアーでは、新たなサポートドラマーとして、
今まで帯同していたマット・スターではなく、
Spock’s Beardで活躍し、現在はBig Big Trainのメンバーとしての活動もしている
ニック・ディヴァージリオを加えた新体制となっています。
(なんでも元々パットのファンでもあるうえ、ドラマー募集のテストでは課題曲としていた”Lucky This Time”のハイトーンのボーカルまでこなした動画をバンドに送り、合格に至ったとのこと。)
今回のフェアウェルツアーでは、2ndアルバム”Lean Into It”(1991)の完全再現も目玉のひとつになっているため、ボーカル・ハーモニーの面の強化も重要だったということがうかがえます。
(事情についてはBURRN!2023年7月号の巻頭メンバーインタビューで詳しく述べられています)
感想(セットリストへの言及あり)
今回はFM802「ROCK ON」の先行予約枠のアリーナから鑑賞。
列も前のほうで、かつ花道・サブステージも近い良席でした。花道とサブステージは名古屋公演にはなかったので嬉しい演出。
会場のSEはMountainやFocus、Thin Lizzyといったバンドが流れていて、渋い選曲で面白かったです。
定刻の19時を少し過ぎたころに、SEがRamonesの”Blitzkrieg Bop”に変わると、ステージ裏のメンバーの様子が映し出されて、一気に大歓声が沸き起こりました。
エリック、ポール、ビリー、そしてニックの全員がノリノリでステージに向かう姿にはグッときましたし、ニックもバンドに馴染んでいるのが感じられました。
4人がステージに登場すると、すぐさま始まった1曲目はなんと“Addicted To That Rush”!
最近ではもっぱらベースソロの後が定位置になっていましたが、ラストツアーとだけあって、1stの最初の曲からギア全開で駆け抜けていくというニクい演出。背景に映る8bitのゲーム風の映像も楽しい!
エリックの声もパワフルで、1曲目からよく出ていました。
続いては「パットのアイコニックなドラムパターンだよ」という前置きからの“Take Cover”。
ニックのドラムの細かなニュアンスのつけ方に、パットへのリスペクトがあふれているように感じました。”Save my soul~!”の大合唱もラストかと思うと寂しいものがありました。
3曲目は再結成作”What If…”(2010)から“Undertow”。
結果的に再結成後のアルバムからの選曲はこの曲のみだったのが寂しくはありましたが、それも現役バンドとしてではなく、MR.BIGのキャリアの締めくくりとしてのツアーだからなのだな……としみじみ思います。
ここからは本ツアーの目玉である、2ndアルバム”Lean Into It”の完全再現ゾーン。
スクリーンにはポール、エリック、ビリー、パットの当時の写真が順に映し出され(パットの写真は長めに映されていて、拍手も一番大きかったのが印象的でした)、
アルバムの1曲目“Daddy, Brother, Lover, Little Boy”へ。
代名詞のポールとビリーによるドリル奏法が炸裂するのもこれが最後!ということで、この日一番の撮影大会になっていたのも印象的でした。(ソロに合わせた「オーオー」がやたらと薄くなっていたのは少し気の毒)ビリーはこの曲もダブルネックのベースで弾きまくっていました。
ちなみにバックの映像は、Tシャツの図柄にもなっていたメンバー4人のイラストがアニメになって大冒険するというもの。彼らのブラザーだったパットがもういないことを逆に強く感じさせられて、自分はこの映像でなぜかボロボロ泣いてしまいました……。
アルバムの曲順通りの進行で、“Alive And Kickin'”、そして“Green-Tinted Sixties Mind”と、ライブの定番曲が続きます。特にやはり”Green-Tinted Sixties Mind”のあのリフを遂に生で聴けたことの感慨は大きかったです。
“Lucky This Time”と“Never Say Never”は、どちらも原曲ではサビのハイトーンが特徴ということもあり、この企画がなければもう披露されることはなかったであろう曲なので嬉しかったです。
キーはかなり下げてはありましたが、それでも曲のもつおおらかで綺麗なメロディの良さは失われていませんでした。ニックも自慢のコーラスで曲に厚みを加えていたのがとても良かったです。
“Never Say Never”のラストの「オーオー」のコーラスをみんなでできたのも嬉しいポイントでした。
そしてその2曲に挟まる形で横ノリの“Voodoo Kiss”があるのも、改めて”Lean Into It”の曲順の完成度の高さを感じさせてくれました。ライブで披露される回数も比較的多い曲ですが、アコースティックで披露されることも多いので、原曲通りの構成での披露だったのは嬉しいところ。
そしてポールによるイントロに導かれて、名曲“Just Take My Heart”へ。
美しいメロディにエリックの歌唱が映え、そこに入ってくるポールのソロもまた絶品。改めて素晴らしい曲だなとしみじみさせられました。
次は一番のレア曲だった“My Kinda Woman”。なんと1992年以来の披露!
そしてこれが意外にも個人的にはすごく良かった!!
というのも、キーが下がっていたこともありますが、渋い雰囲気のリフから段々とボルテージを上げていく曲の流れが、今の円熟したバンドの雰囲気にピッタリとマッチしていたように感じたからなんですね。原曲は歌いだしからエリックが若さに任せた高音全開なのでまた印象は異なるのですが、この曲の良さに改めて気づけたのは思わぬ収穫でした。
打って変わってビリーの渋い低音ボーカルから始まる“A Little Too Loose”。ビリーとエリックが下手側で顔を見合わせながら歌うのもとても良かったです。原キーよりさらに下がったのに歌い切ったビリーは凄い。
そしてこれも嬉しい“Road To Ruin”。ハネるリズムに4人のコーラスワーク、ポールの華麗な上昇/下降フレーズのソロと見どころ満載でした。
アルバム完全再現の〆は勿論“To Be With You”。中盤での披露になるのはかなり珍しいです。
みんなでサビの大合唱になるお馴染みの光景もこれがやはり最後、という寂しさ交じりの美しいひとときでした。
ここからは花道を渡った先のサブステージでのアコースティックセット。
ニックもタンバリンとコーラスでの参加です。
まず1曲目が、エリックの「MR.BIGとして初めて作った曲」という前置きからのまさかの“Big Love”!1stの中でも哀愁のメロディが光る大好きな曲だったので嬉しいサプライズでした。
そして「次の曲は”Bump Ahead”からだったかな?」というMCから“The Chain”へ。
いやそれ思いっきり”Hey Man”の曲です……と心の中で(恐らくみんな)ツッコみつつも、絶妙な選曲に感謝。
そして今度こそ”Bump Ahead”から“Promise Her The Moon”。ビリーの好きな曲とのこと。
アコースティックで披露されたのは予想外で、ひときわ歓声があがっていました。
スタンド席ではこの曲でスマホのライトを点灯させている方が多く、綺麗な光景に「ありがとう」とエリックが感謝を述べる一幕も。
続けて”Hey Man”から“Where Do I Fit In?”。アコースティックセットでは比較的よく披露される曲ですが、キメの部分でエリックとポールのギターがなかなか揃わないことも。とはいえやはりこれもいい曲。”Hey Man”はリズムの面白さを堪能できる曲が多くて良いなと改めて実感。
ここでメンバーはメインステージに戻っていき、“Wild World”へ。原曲通りドラムセットが入ると迫力がありました。サビの合唱もバッチリ。
ここでポール以外のメンバーが舞台袖に掃けていき、ポールのギターソロタイムに突入。
常に進化し続ける速弾きに圧倒されるのも束の間、聞き覚えのあるメロディを弾きはじめるポール。よく聴くと“Nothing But Love”の歌メロをギターで弾いていたのでした!
ソロアルバム最新作の”The Dio Album”(2023)でもみられるように、ここ10年ほどは特に「いかにギターに歌心を宿すか」といういわばマーティ・フリードマンの境地を探求しているポールですが、今回の“Nothing But Love”はその「歌心」にあふれた驚異的な素晴らしさ!サビから原曲のギターソロに移って締めくくったポールのソロは感動的で、生で味わえてよかったと心から思える最高の時間でした。
ポールのソロの余韻に浸っていると、ここで間髪を入れず“Colorado Bulldog”に突入!!
驚異的なパワーとグルーヴで攻めたてるこの曲の魅力のひとつが、ファストナンバーでありながらしっかりジャジーにスウィングしていること。その点ニックのドラムはパットが出していたそのニュアンスを完璧にトレースしていて、まるでその場にパットがいたかのよう。すべてが嚙み合った見事な演奏でした。
そこから今度はビリーのソロタイムへ。バンド最年長の70歳という年齢を微塵も感じさせない、初期から変わらぬ爆音とスキャロップ加工されたベースでの物凄いタッピングの絨毯爆撃!一度ビリーのソロはThe Winery Dogsのライブで観たことはあるのですが、何度観ても強烈で目が覚める瞬間でした。
黒地に刺繍で「四弦達人」の文字が書かれたリストバンドが大写しになるのも嬉しい。
そして今度はそのまま“Shy Boy”へ!ビリー・シーンの代名詞的な一曲にここでも大盛り上がり!
ポールとの息の合った超絶技巧が楽しめて大満足でした。
“Shy Boy”から最後までは、すべてカバー曲が続きます。
まずはこれも定番“30 Days In A Hole”。
そして続く“Mr.Big”は、なんと名古屋公演のセットリストにはなかった選曲!
バンド名の由来となった曲をラストツアーでこうして披露してくれるのは嬉しい限り。
ドラムヘッドのバンドロゴを、観客に「M! R! B! I! G!」と一文字ずつ読ませてからのスタートでした。
さて、ここからが本来はアンコールとなるパートですが、エリックが「僕らはどこへも行かないよ~」というMCをして、そのまま最後まで一気に進めることに!
そして恒例の楽器シャッフルタイム!エリックはベース、ポールはドラム、そしてビリーがボーカルを務めます。ニックもマルチプレイヤーなのでギターで参戦!
曲はThe Rascalsの“Good Lovin'”。直前になってエリックがベースの押さえるフレットをビリーに確認する場面もあって面白かったです。
ちなみに中国公演のセットリストを見る限りではここでライブ終了なのですが、エリック曰く「このままじゃ終われないよ!」とのことでThe Whoの“Baba O’Riley”で本当のラスト!
これで終わりなんだ…という感慨を抱えながらあっという間にライブは終了。
最後にはビリーの口から大阪でのMR.BIGのライブはこれで最後であること、自分たちを歓迎してくれた日本、大阪の人たちへの感謝が述べられました。エリックが終盤ずっと目を潤ませていたのも印象的でした。
そしてバンドの、いや僕たちのブラザー!とパット・トーピーの名前が呼ばれると、無人のドラムセットにカメラがスイッチ。きっとパットの魂はそこにいてくれているんだ……という演出に涙。
MR.BIGの歴史を総括する、ライブ冒頭のエリックのMCの言葉を借りれば「セレブレーション」として、これ以上ない最高のライブでした。
Thank you, MR.BIG!!
MR.BIG大阪公演セットリスト(2023/07/22)
1.Addicted To That Rush
2.Take Cover
3.Undertow
~”Lean Into It”完全再現~
4.Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)
5.Alive And Kickin’
6.Green-Tinted Sixties Mind
7.Lucky This Time
8.Voodoo Kiss
9.Never Say Never
10.Just Take My Heart
11.My Kinda Woman
12.A Little Too Loose
13.Road To Ruin
14.To Be With You
~アコースティックセット(サブステージ)~
15.Big Love
16.The Chain
17.Promise Her The Moon
18.Where Do I Fit In?
19.Wild World (※Cat Stevensのカバー)
20.Paul Gilbert Guitar Solo (Nothing But Love)
21.Colorado Bulldog
22.Billy Sheehan Bass Solo
23.Shy Boy (※Talasのカバー)
24.30 Days In A Hole (※Humble Pieのカバー)
25.Mr.Big (※Freeのカバー)
26.Good Lovin’ (※The Rascalsのカバー、楽器シャッフル)
27.Baba O’Riley (※The Whoのカバー)
コメント